ショート小説「傍聴マニア」

「オザーッス、先輩」
「オゥ、淳平。朝から機嫌いいじゃん」
「ニヒヒヒ、実はいい事あったんスよ」
「まさか女か?」
「そっちじゃなくて裁判の方。面白いのにぶち当たったんス」
「なにぃ~それはそれでムカつくな。淳平のくせに!」
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大学の講義室での、朝の一場面である。「先輩」こと川島翔太と「淳平」こと木村淳平は同じ学部の二回生だが、川島は留年しているので「先輩」と呼ばれている。気の合う二人は大学の外でもよくつるんで遊んでいるのだが、何せ二人揃って怠け者でバイトなどロクにしない。よって、ヒマはあるが金はない。何とか金がかからずに面白い事はないかと思っていた時に、川島が駐車違反で切符を切られてしまった。面白半分でついてきた淳平を連れて罰金を払いに裁判所に行った時に
「あれ、そう言えば裁判って見学できるんじゃなかったっけ?」
「マジっすか?犯罪者ってどんな顔してるか見てみたいっス」
「じゃ、ヒマだからチラッと見てみるか」
と軽い気持ちで空き巣の裁判を傍聴したのが始まりだった。ドラマとは全く違った独特の雰囲気と、自分達の身近でこんな犯罪が起こっていたのか言う新鮮な驚きでスッカリ裁判の魅力に取り付かれてしまった。それ以来、二人は傍聴マニアとなり、少しでも時間が空くと裁判所に出向くのが習慣となっていた。暇を持て余しているのは二人とも同じだが、川島のほうが取っている講義が少ないので裁判所に行く時間も作りやすい。その為「また面白い裁判に当たっちまったよぉ~」と自慢するのは川島、と言うのがいつもの構図だった。
*       *       *
「そんな事言って、実は大した話じゃないんじゃねぇの?」
「いや、マジでスゴイ事にぶち当たったんですって。まぁ、たまには俺の話を聞いて悔しがる側になってくださいよ」
*       *       *
それは二日前の午後だった。講義が午前中しかなかったので、淳平は昼一番で裁判所に来ていた。もう慣れたもので、入り口から法廷への長い廊下を迷うことなく歩いていった。その裁判所内には一号から六号まで法廷があり、それぞれどのような裁判が行われるかは各法廷のドアに張られた日程表に書いてある。淳平にとって、それは映画館の時刻表のように見るたびにワクワクする代物だった。その時、三号法廷のドアの前に誰か立っているのに気がついた。よく見ると若い女性だった。
“キレイな人だなぁ・・・最近は裁判の傍聴に来る人が増えてるって言うけれど、こんな人も裁判所に来たりするんだ”
その女性は身動きせず、じっと法廷のドアに張られた日程表を見つめていたが、おもむろに手を伸ばすと一気に破り取ってしまった。
「ちょっとダメだよ!」
驚いた淳平は思わず叫んで駆け寄った。
「何でこんな事を?」
「・・・入れないの。入りたかったのに」
「法廷に入れない?」
ドアに視線を向けると『傍聴希望者多数につき、入場券のない方は入室できません』と張り紙がしてあった。
「あ、この裁判は抽選で入場券を貰えないと入れないヤツだ」
「そんなの持ってない。でも、入りたかった」
「どうして?」
「私・・・この事件の被害者なの」
「えっ、マジ?」
「傍聴席から直接犯人を睨みつけてやりたかった。そして、どんな顔で質問に答えて、判決を聞くのか見てみたかったの」
「そうかぁ。でも、決まりだから・・・」
「そう・・・仕方ないわね」
そう言うと女性は魂が抜けたような顔になり、淳平に背を向けて行ってしまった。
*       *       *
「どうっスか?被害者と直接話せるなんて、なかなか無いでしょう」
「・・・いや、それはスゲェわ」
「へへへ、羨ましいですか」
「確認だけど、それって二日前の午後イチに三号法廷で間違いないよな」
「・・・そうですけど?」
「俺、その事件の事、新聞で読んだ。でも・・・有り得ねぇ」
淳平はその時初めて、川島の顔が真っ青な事に気がついた
「その事件、何かあるんスか?」
「大ありだ。お前、本当に知らねぇの?」
「何をっスか?」
「だって、その時間にその法廷でやってたのって、OL連続殺人事件の裁判だぜ?」

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