『星の子』小説レビュー(今村 夏子)


星の子 [ 今村夏子 ]

『星の子』小説レビュー(今村 夏子)

 

writer/にゃんく

 

 

今回は、今村夏子の小説『星の子』のレビューをおとどけします。

STORY

主人公は、林ちひろ(女の子)です。
まず、ちひろが赤ちゃんのころから語られます。
ちひろが小さいころは、体がよわく、湿疹(しっしん)などができたため、ちひろの親は、ある宗教団体が販売している「金星のめぐみ」という水で、ちひろの体を清めます。すると、湿疹がウソのように治ります。
また、ちひろの両親は、その水を飲みはじめます。すると、風邪をひかなくなります。
そのような体験から、ちひろの両親は、その宗教団体の集会などに顔をだすようになります。
本文中に説明はありませんが、おそらくちひろの両親は、かなりの金額をその宗教団体に献金をしていることが推測されます。なぜなら、一家はひどく貧乏なのです。

物語は、ちひろの視点ですすめられます。
ちひろの恋の対象が移りかわっていくくだりなどは、おもしろいです。
同級生にはじまり、ターミネーターⅡに登場する、ジョン・コナー少年に恋したりします。
小学時代は、友だちのできなかったちひろですが、社交性のある渡辺という転校生の女の子と友だちになってからは、中学生になるとすこしずつ友だちができるようになります。

両親の宗教熱はあいかわらずで、通常の生活時においても、お風呂に入るときのように、頭の上に白いタオルを載せていたりします。宇宙にいちばん近い頭のてっぺんを清めると、血のめぐりが良くなるという(宗教団体の)話を信じているのです。
しかし、そのような行動も、家のなかでこっそり行う分には害がありませんが、外の世界でまで表現するようになると、不審がられることになります。
そして家庭はあいかわらず貧乏で、ちひろはご馳走などを食べたことがほとんどありません。
ちひろはおばあちゃんの何回忌かに出席し、ふるまわれた仕出し弁当の味が忘れられません。
数年に一度のお婆ちゃんの何回忌かの招待状が家にとどくと、仕出し弁当が食べられると思って、ガッツポーズするほど。そのへんの描写もおもしろいです。ただし、貧乏だからといって、悲愴な感じはありません。ちひろ自身は、貧乏を、当たり前のものとして、空気のような存在として受け入れて生きているようです。

そして、ちひろの恋愛は片思いばかりが続きます。
ある日、中学に新任の若い男の先生が赴任してきます。
ちひろはその先生を見て、運命を感じます。
なぜなら、その先生は、ターミネーターⅡに登場する、ジョン・コナー少年にそっくりだったからです。
ちひろは授業中に、その先生の似顔絵を何枚も描きつづけます……。

中学3年生にいたるまでの、同級生や片思いの相手、ちひろを愛する両親との関係を描いた作品です。

 

REVIEW

終わり方もいいと思います。ほっこりします。
この作品も、芥川賞候補に選ばれています(受賞はしていません。)。
今村夏子の作品は、何作か読んでおりますが、全部おもしろいですね。「あひる」もよかったです。寓意性があって。
しかし、今回の作品も、おもしろいです。
難しいことを考えなくても楽しんで読める作品という点が大きいです。
賞向きの作品でないかもしれませんが、受賞する作品だけがエライというわけではないと思いますし。

作中、とくに、ひきこもりの男・ひろゆき君が、ちひろを呼び出して、キスしようとするシーンが秀逸です。
この作家は、ひきこもり男性を描かせたら世界一かもしれません。
(男性作家には、リアルすぎて書けないかもしれません。こういう男性は、いま、現代日本には絶対います。リアルすぎて、作者は本当にこのような経験があるのでは? と思ってしまうほどです。)

とにかく一度読んでみて下さい。オススメ。

 

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