『百年泥』石井遊佳

writer/にゃんく

 

STORY

付き合った男にだまされて、借金を返すハメになった日本の女性が主人公です。
主人公の女性は、離婚を経験していて、借金を返すために元夫(だました男とは別の男)から金を借りますが、その金の返済のために南インドのチェンナイで日本語教師として働くことになります。
インドでの生活後まもなく、百年に一度クラスの大洪水にみまわれます。
数日、家から外へも出られません。
水が引いた後、外へ出てみると、百年間堆積していた泥が、川の濁流で押し流され、泥のなかから様々な品々が現れます。その品々にまつわる出来事を、主人公が追体験する物語です。

REVIEW

2018年上半期の芥川賞受賞作です。
この回の芥川賞の受賞者は、石井遊佳(54歳)と若竹千佐子(63歳)。54歳と63歳の新人ということで、作者の年齢も話題となりました。

さて、『百年泥』(石井遊佳)ですが、作者の石井さん自身が、インドのチェンナイで日本語教師をしており、作中起こる大洪水も、作者が2015年12月にチェンナイで経験した大洪水をモチーフにしたものだといいます。
インド見聞録とでもいったような、実際に生活していて知ったインド社会の様子がこまかく描かれています。
その一方で、背中に翼を装着して空を飛んで出社する会社員のような、非現実的な光景も、当たり前のように描かれています。
現実の、リアリズムの世界に、堂々と非現実をまぜる上記のような手法を、「マジックリアリズム」といいます。
マジックリアリズムというと、ノーベル賞作家のガルシア・マルケスを思いだします。(『百年泥』というタイトルからして、マルケスの『百年の孤独』を意識したものだと言えるでしょう。)
*『百年の孤独』でも、おしりにブタのシッポの生えた赤ん坊が生まれたり、登場人物が亡くなって昇天するというふうな出来事が、ふつうに起こります。

作者の石井さんは、(芥川賞受賞の)20年前に、文学界新人賞の最終候補になったそうです。それ以来、100作は小説を書いてきたといいます。
今回の『百年泥』が文学界新人賞を受賞して、芥川賞受賞もするダブル受賞になったわけですが、『百年泥』自体は、好き嫌いのわかれる作品かもしれません。
背中に翼をつけて空を飛んで出社する、というふうなブラックリアリズム的エピソードを、おもしろいと感じることができるかどうかですね。
他にも、泥のなかに10年前に行方不明になった人が埋まっていて、掘り出してみて「やあ、ひさしぶり」
「お前、どこに行ってたんだ」
みたいな会話もかわします。ブラックリアリズム。
ぼくがおもしろく読んだのは、作中、借金の取り立てにまつわるエピソードのように、作者の体験から書かれていると思われる部分です。(作者はいろんな仕事をこれまで経験しているそうです。)
他の人の感想も、聞いてみたい作品です。

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