『王権の扉』古今無双我流

 王権の扉

 

古今無双我流

 

光を浴びたものは、須く影を帯びる。影を帯びたものは、闇に溶ける。闇は光に照らされると目を細め、遮る物のない世界に憤怒を覚えた。

原始。人の世の言葉はまだ少なかった時代。
樹々が鬱蒼と茂り、人がまだ食物連鎖の頂点にいなかった頃。猛獣や猛毒を持つ動物、昆虫それらと対峙するのに、石飛礫や、木の棒しかなかった時代。憤怒を覚えた闇が、人の心に目を付け、その揺らめく炎より移ろいやすい人の心に付け入るように、闇は話しかけた。

「我が名は神。人よ、猛獣やその他外敵から身を守る術は欲しくはないか。」

人々は最初その声に怯え、畏れを抱いたが、ある時一人の若者が、この声に応えた。

「神よ。我ら人類は、未だ外敵から、身を守る術を持たない。如何にすれば、彼らから身を守ることができるだろうか。」

闇は答えた。
「若人よ。お主は勇気を持ち我に話しかけた。ならば、答えよう。火を起こせ。」

「火とは何か?」

「火とは即ち、第一の元素。火山から発する一つの力の名だ。」

「あんなに恐ろしいものを我らが扱えるのか?」

「簡単なこと。お前たちの持つその木の棒を木の板に素早く回しながら、擦り付けるだけで良い。」

「分かった。やってみよう。」

それから、若者は、手頃な木の板を見つけ、持っている木の棒を言われた通り、素早く回しながら、擦り付けた。初めは、おが屑しか出ない。しかし、そのおが屑がやがて、煙を放ち軈て火種が付いた。すぐさま、その火種に枯葉やら棒を置き軈て大きな炎となった。
以来彼らは、闇を神と讃え、神の言葉を聞けるものに、賢者と言う称号を与えた。その時闇は、与し易いものを見抜いていた。狡猾にその者が持つ心の闇を見抜いていたのだ。

「若人よ。その火があれば、松明を作れる。これで、夜の闇にも猛獣に怯えることはない。」

「ありがたいことだ。神よ。しかし、我らは
猛毒を持つ者に対抗する術がない。」

「それには、石を木に蔦で巻き付け、石斧を作り、木を倒し、家を作れば良い。」

「なるほど。」

以来彼らの集落は、神と称する闇の知恵によって、瞬く間に文明を築きあげて行った。
闇はこれらの知恵を彼らに授ける代わりに、日を遮り、月の明かりから逃れる術を人伝に叶えて行った。しかし、疑神はいつまでも、善識ばかり与えない。軈て闇は神と崇められることを利用し、賢者と呼ばれる自分の僕に悪知恵を吹き込んだ。この時より、賢者は、階級を作り上げて、自らを王と称し、かつて、全ての人が対等だった時代に終わりを告げる。未開のジャングルだったこの土地に、実に一万年を越える支配の時の始まりだった。

 

 

執筆者紹介

古今無双我流
趣味は作詞、作曲、作画、料理、将棋、小説投稿等幅広いジャンルをこなします。

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です