「『俺スタバデビューしたんだわ!』冴えない可愛い男の子たちの話」茅野まりな

『俺スタバデビューしたんだわ!』冴えない可愛い男の子たちの話

 

 

茅野まりな

 

 

 

 スターバックスコーヒー、通称 ” スタバ ” は誰もが一度は耳にしたことのある、若い世代に好まれている有名なコーヒーチェーン店です。
 スタイリッシュな店内にはサラリーマンや学生、オシャレな洋服に身を包む見た感じ20〜30代の人が仕事や勉強、息抜きなど様々な時間を過ごしています。
 そして、時間によってはお店の外まで列を作るのも、すっかり定番となっている光景ですね。
 本日はスタバの列に並ぼうか迷っている見るからに冴えない可愛い男の子達のお話を1つしましょうか。

 

 あれは、夏が終わり秋の訪れをなんとなく感じさせるような少し肌寒い日のことでした。
 大きくひらけた吹き抜けが印象的な複合施設にあるスタバは昼時を過ぎると店内から外まで行列ができます。
 その行列に友人と並びながら何を飲もうかと前に並んでいるカップルから手渡されたメニューを眺めている時です。
「俺スタバデビューしたんだわ!!!!!」
 大きな声で自慢げに言いだしました。おそらく、お店を視界に入れて思い出したのでしょう。
 声のした方へメニューから視線を移すと、おぼこく野暮ったい感じの男子学生さんが3人。
 見た目で判断するのは申し訳ないですが、いかにもゲームや漫画が好きそうな姿です。「えーーー!お前そんな敷居高い所行ったのかよ?!こんなリア充だらけの所俺らには無縁だろ」
 スタバデビューを聞いた男の子が盛大に驚きの声をあげます。確かに、この雰囲気と洗練されたメニューでは、失礼ながら彼らにあまり縁がないお店なのかもしれません。
 もちろん、お金の融通が効くようになる社会人やバイトに勤しむ学生さんと比べて懐事情も考慮してですが。
 そして、まだまだ興奮している友人達の口は止まりません。
「お前もうリア充じゃん!こんなオシャンティすぎるところ足踏み入れるとか、お前もうリア充じゃん!ヤベェ」
「だよな!あのリア充の聖域に行ったとか勇者すぎて俺無理!マジ無理!」
 彼らはどんどんスターバックスの存在を「オシャレなリア充の人のみが足を踏み入れることが許された聖域」だと神格化させていき、スタバデビューをした男の子を勇者だなんだと崇め奉ります。思わず真顔になっていく私。理由は簡単で、彼らに是非とも思い出して欲しいのです。スターバックスがコーヒーチェーンであることを。
そして、彼らは勢いのままにハイテンポな会話を繰り広げ、話題はスタバを使う人の特徴や店内の雰囲気だけではなく、ドリンクの名前へたどり着いたのです。あの、何回もスタバを使っていても噛んでしまいそうな名前です。
「お前、よくあの飲み物初見で注文できたよな。シャレオツ呪文ネームとか噛んだらハズいじゃん」
「それな。噛むと童貞感丸出しだよな。俺はスタバ童貞ですみたいな」
 童貞発言に弾けるような笑い声で笑い出した男の子たちと、″初見″や″呪文″の言葉にネットをよく使っているのではないかという予想が確信へと変わっていくのを感じる私。進んでいく列に会話の終着点に辿り着けないのかと残念に思った時でした。
「で、何頼んだんだよ」
 1人の男の子が会話を戻しました
「………オレンジ」
 ほんの少しの間をおいて、得意げだった男の子が口を開きます。残りの男の子たちは不思議そうな様子です。
「…オレンジジュースだよ」
 まさかのまさか。テンパってしまいスタバで売られている子供用のオレンジジュースを頼んでしまったらしいのです。あんなにも胸を張ってデビューしたことを言っていたのに、いざ蓋をあければややこしい名前でもなんでもなく、ごくごくシンプルなジュースを頼んでしまったようなのです。店員さんと対面した瞬間にずっと心の中で唱えていたらしいメニューの名前が飛んでしまったらしいのです。あまりの可愛らしさに思いフっと口元が緩んでしまったのは、どうやら私だけではないようで、前に並んでいた女子高生の女の子たちも後ろの男性達からも小さな笑い声が聞こえました。笑い声だけなら、話をしていた男の子たちは居た堪れなかったかもしれませんが後ろの男性の1人が言いました。
「それなら俺一生童貞だわ」
 空気がどことなく緩み、このお話の主役たちは気恥ずかしそうな笑みを浮かべました。余談ですが、このオレンジジュースは妹さんが飲まれたようですよ。

 

 

 

執筆者紹介


茅野まりな

メンズエステ、女性専門エステ講師の Marina です。

ウェブライターも趣味でしております。

 

 

 

↓「like」ボタンクリックお願いしますm(_ _)m

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です