「ひゃあっ」
にゃん五郎は思わず声をあげた。ヘビが尾の先でショートケーキの乗った皿を優雅に載せてこちらに向かってにやりと笑う。それはご主人の魔の手からずっと狙っていたはずのケーキだった。
「こ、こいつぅ……、返せよぉオイラのだぞぉ」
にゃん五郎は立ち向かおうと立ち上がる。ヘビはそれすらただの虚勢であることを見抜いているかのように嘲笑する。
「ご、ご主人んんんん」
いつもは悪戯ばかり仕掛けて困らせるのが楽しいご主人だけれど、こんな時は頼りたい。にゃん五郎は敗北を噛み締め、ケーキを見送りながらご主人の元へと走るのだった。
「待てよ」
ヘビが囁く。何も意地悪しようなんざ思っちゃいねぇんだぜ。ヘビは笑う。
「半分分けてやってもいいぜ」
「半分、くれるのか、にゃ?」
それは悪魔……いや、ヘビの囁き。甘い誘惑なんかに負けるなにゃん五郎! 自分への叱咤激励も虚しく、じゃあ遠慮なくー、とケーキを嘗め始めた。
二匹はこの後、秘密を分け合う内緒の友人となりましたとさ。
文/海月奏。
イラスト/いいこ
執筆者紹介
いいこ
できるだけイメージ通りになるよう、お客様との対話を重視するイラストレーターさんです。
海月奏。
twitterにて「海月奏。(うみつきかなで)」として活動中。
文章を書くことは、息をするのと同じ。溜め息のように文字を奏でる。
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