『Idle talk of the journey』サバチー

Idle talk of the journey

 

サバチー作

 

 

大学3年の夏休みにさ、旅行行くことにしたんたんだよ。
ほら、恥ずかしいけど自分探しの旅とか言って意識高い系の大学生がインドとか行ったりするじゃん。
俺、ああいう奴らのこと実際馬鹿にしてたんだけどさ、でもあんだけあいつら「人生観変わる」なんて言ってるもんだからちょっと興味湧いちゃったわけ。
友達も2年の夏にインドとかそっちの方行って、案外向こうの言葉喋れなくてもバックパッカー仲間やなんやかんやで何とかなるって言ってたしね。
思い立ったら吉日ってやつだよね。
そのとき丁度バイトの人間関係も悪くなってたから心のどこかでそれもリセットしたいとか思ってたんだろうなぁ〜。
まぁとにかく海外旅行行こうと思ったけど俺ってほらリオン、猫飼ってるんじゃん。
誰かに預けようにもうちの実家、親父が猫アレルギーだから無理だし、かと言っていつ帰るかわかんないのにペットホテルなんてヤバいだろ?
どうしたもんかな〜なんて考えてたらタカの事思い出したんだよ。
そんでタカに…
ん?タカだよタカ。
中学同じだったタカヒロ。
あいつ動物すげぇ好きで猫2匹飼ってんの。
だから1ヶ月くらい猫1匹増えても問題ないか、なんて楽観して連絡したら快諾してくれたわけ。
猫好きに悪い奴は居ないってな、ハハハ。
んでリオンのことはこれで解決だっつってタカに餌代やら渡して、おっしゃ旅行行くぜってなったの。
じゃ、まず最初どこいくかなーって、その時まだ航空券とか買ってないからね、自分探しの旅に計画性は似合わんでしょ。
そんで結局分からないとこは教科書通りにってことでインドに行くことにしたよ。
ビックリしたんだけどインドって日本から直行便出てんだな。
でも高ぇの。
すっげぇ高ぇ。
事前予約してない俺も悪いんだけどニューデリー行き、73000円だよ?
俺の1ヶ月分の生活費だよこれじゃ。
しかも長ぇの。
飛行機乗ってる時間がすっごい長ぇ。
そのとき初海外だったんだけどご近所の韓国なんかは2時間くらいで行けるって聞いてたからそのへんのギャップが悪い方に働いたよ。
文句言っても仕方ないから飛行機乗って行ったよ、12時間。
ニューデリー着いた時にはもうケツの肉がポロポロ取れそうになっちゃったよ。
で空港で手続きやなんか済まして…今のアプリってすげぇよな、スマホ1つありゃ手続きなんか簡単に終わっちゃったもん。
んで、空港から出たらすげぇの。
日本に来た外人がよく「醤油の匂いがする」っていうの嘘だと思ってたけどインドはもうカレーの匂い。
カレーの匂いっていうかなんかのスパイスの匂いなんだろうけど、とにかくあれだね、その国の匂いってのは間違いなくあるってのは感じたね。
で、インドでの出来事だけどこれが、これが特段話すようなことは何もなかった。
えー!だよね。
俺だってえー!だよ。
なんかもう想像通りなんだよね。
ガンジス川は汚いし詐欺師は多いし、でもそれこそタージマハルだったりマハーボディ寺院なんかは感動したよ。
だけど人生観変わるなんて人はよっぽど感受性が強いのか世間知らずなのか。
確かに日本の生活や文化からは乖離してるけど実際に行ってみると違うんだ、ってほどでもなかったなあ。
メシも美味いんだけど大抵油っこいし全部カレー味なの。
んで、なんかホームシックじゃないけどもう帰りたくなっちゃってさ。
リオンに会いたいよ〜なんつって。
リオンは別になんとも思ってなかっただろうけど。
なんで?
なんでって猫はそういう生き物だからさ。
猫って基本飼い主を無視するからね。
これじゃどっちがどっちを飼っているのかわかんないよ。
猫飼ってる人ってみんなMなんじゃないかな。
アハハハ、確かにタカはドMって言われてたもんな。
じゃあそのM精神でもうちょっと旅行続けるかと思ってね。
でも自分探しの旅から猫好きの旅に変えちまおうってことにして。
リオンになんかお土産でも手に入ったらなあなんて。
だから次はトルコに行くことにした。
イスタンブールは猫の街なんて話をどっかで聞いてたんだよ。
俺ケバブとか好きだし。
いやぁ〜、トルコは良かったぞ。
完全に肌に合ったわ。
特にあそこは文化のちゃんぽんだからさ。
そもそも俺はヨーロッパ旅行行きたかったしその空気感もあってね。
しかも観光だけならイスタンブール周辺で事足りるくらい充実してんの。
トルコ風呂も入ったぞ。
向こうじゃエロい店じゃないけどな、ハハハ。
そんでね、やっぱ猫が本当にいっぱいいたよ。
日本でも猫島なんてあるけど都市全体が猫まみれ。
親孝行だー、っつって親父をトルコに連れて来うもんならもうそれは悪魔の所業だよ。
特に感動したのはね、遺跡。
いやいや、遺跡とかそういう歴史的遺産も好きだけどさ、遺跡に猫が住み着いてるわけ。
なんていうのかなー、ノスタルジーじゃないけど色んな歴史が詰まった過去の史跡に今じゃ長閑に猫が暮らしてるこの情緒が堪んなくてな。
実はトルコの後も別の国行ったりしてさ、マルタ島なんかは本当にもう猫の楽園ってな雰囲気だったけどトルコの情緒には勝てないよやっぱ。
無理にインドなんて行くより自分の行きたいとこ行った方が人生観変わるね。
お前もどっか行きたい国あったりするか?
へー、やっぱお前もヨーロッパ行きたいのか。
うんうん、イタリアね。
そんじゃあイタリア行って楽しかったらさ、お前もトルコ行ってみるといいよ。
猫も好きだって言ってたしさ。
メシもケバブだけじゃなく美味いものいっぱいあるぞ。
つーかケバブって肉料理って意味だから全部ケバブだけどな、ハハハ。
そういやトルコのレストランで飯食ってる時にさ、急に地元の人間に話しかけられたの。
「お前は日本人か?観光に来たのか?」って日本語で聞いてくるの。
後で聞いたら日本のアニメが好きっていうテレビでよく見るような外人だったんだけど。
それでまぁ「猫を見に来ました。」って言ったらえらく喜んでね。
観光客はいっぱいいるけど猫が目的かって笑ってたよ。
どうやらトルコじゃ街ぐるみで猫の面倒見てるらしくてね。
なんかその人と意気投合しちゃって向こうにいるあいだは随分世話んなったよ。
これじゃあ俺が猫だな、ハハハ。
で、その人が言ってたことでひとつよく分からんことがあってな。
「神様は絶対に猫だ。」って言うわけ。
冗談なのか宗教観の違いなのかもよくわかんなかったな、その時は。
その時は、ね。
さっきも言ったけどそのあとイタリアも行って猫見たり観光したりで楽しんだんだよ。
んで、日本帰ろうって時にな、今度はしっかり飛行機予約して観光地から電車乗ってローマに向かおうとしたわけだ。
でも来ないんだよ、電車が。
やっぱ日本ってすげぇのな。
時間通りにくるからな、電車が。
もう天に祈りを捧げたよ。
なんたって70000円が吹き飛ぶからね。
1ヶ月分の生活費の70000円が吹き飛んじゃうから。
神様!どうか早く電車をよこしてください!って
その時にあのトルコ人が言ってた意味がわかったよ。
神様は絶対に猫だって。
どんだけ話しかけても、神様も猫も無視するもんなあ。

 

 

執筆者紹介

サバチー

ブログ書いたりYouTuberもどきやったり小説書いたり歌作ったりする多趣味な男です。

 

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