『シャイニング(スティーブン・キング著)』小説レビュー

writer/にゃんく

 

(あらすじ)
 コロラド山中にあるオーバールックというホテルの管理人として働くために、ジャックは妻と子供を連れてやって来ます。寒い冬のあいだは、ホテルは営業をせず、客がこないために、ボイラーの点検など、誰もいないホテルの管理をする仕事です。

 

 しかし、オーバールックはいわくつきのホテルであることが、徐々にわかってきます。過去にはギャング同士の抗争があり、ホテルの部屋が殺人現場になったこともあります。また、過去の管理人一家の、ジャックと同じ立場の夫が狂って、妻と娘を殺して自分も死んだという事件もありました。その他、血腥い事件は数知れません。

 

 ジャックの息子のダニーは、五歳の子供ですが、人の内心の声を聴くことができたり、未来の出来事を予知したり、といった特殊な能力「かがやき」を持っています。ダニーには、他の人間には見えない、トニーという友達がいます。ダニーは白日夢を見ているあいだに、トニーが現れ、オーバールックが怖ろしい場所であることを知ります。繰り返し現れる悪夢のなかの、おそろしいREDRUM(レドラム)という言葉。が、ジャックと妻のウェンディが離婚問題に発展しかねないギクシャクな関係にあり、両親がオーバールックで働くことが一家にとって経済的に必要不可欠なことであり、なにもすべての悪夢が現実になるわけではないと自分に言い聞かせて、オーバールックで生活することに腹をくくります。

 

 黒人のコックであるハローランという男は、ダニーと同じく「かがやき」を持った人間ですが、ダニーを一目みて、自分と同じ特殊な能力を持った人間であることに気づきます。ハローランは、ダニーに、「<かがやき>を持った人間は、このホテルで様々な嫌なものを見るが、それらは壁に描いた絵と同じで、直接自分の身を傷つけたりすることはできない。だから、必要以上に怖がらなくてもいい。ただ、217号室にだけは絶対に立ち入らないように。あそこでは以前、怖ろしいことが起こったし、働いていた霊感の強いメイドが、あそこで変なものを見たといって首になったことがある。わしは冬のあいだは、コックの仕事がなくなるのでこのホテルからいなくなるが、困ったことがあれば、<かがやき>を使って、わしを呼んでくれ。すぐに駆け付けるから」。そういう意味のことを言って立ち去ります。

 

 やがて夏季のホテルの営業が終了し、ジャック一家だけがホテルに残されます。
 ダニーはハローランの残した言葉を頼りに、自分だけスイートルームの壁に、脳みそや血液がべちゃっとへばりついた様を見ても、それらは直接自分の身を傷つけたりしてくるものではないので、冷静な振る舞いをするようつとめていましたが、絶対に立ち入ってはならないと言われていた217号室に、誘惑にまけて合い鍵をつかい侵入したときあたりから、ダニーの強い「かがやき」に魅せられたように、オーバールックに棲み着いた「魔のもの」が、夜ごと仮面舞踏会を開いたり、ジャックに囁きかけ、ジャックを洗脳し、彼を異常な振る舞いに駆り立てていきます。……

 

(以下ねたばれのレビューです)。
 「幽霊屋敷」をテーマにした恐怖小説です。
 「幽霊屋敷」ですから、もちろん「お化け」の類は登場するわけですが、この作品が良いと思われるところは、やはりジャックがホテルの魔物の囁きに洗脳されて狂気化し、家族を斬殺する殺人魔と化すところでしょう。(そこが怖いから、おもしろい!)
 ジャックは以前、酒におぼれ、そのために事故もおこし、またダニーが自作の戯曲の原稿を汚したために怒り、ダニーの腕を折っています。
 そのことを反省し、やっと得た仕事で家族のために懸命にホテルで働いていこうと決意しているジャックが、ホテルの魔物に取り憑かれていく様は、おそろしいです。

 

 これが仮に、幽霊屋敷のお化けが襲いかかってくる作品だったとしたら、それほど怖くないだろうし、ベストセラーにもならなかっただろうと思います。ホテルの魔物は、ジャックの目には見えますが、ウェンディのような「かがやき」のない人間にはほとんど見えません。

 

 スティーブン・キングはモダン・ホラーの帝王という呼ばれ方をします。それまでのホラーとはすこし違うみたいです。つまりそれまでのホラーが、超現実的な場所を舞台にしているのに対し、キングの場合はアメリカの、ごく平凡な場所を舞台にしている。日常描写も詳細に行う。

 

 この作品には仕掛けにも事欠きません。
 それはつまり、ジャックの、ボイラー管理の仕事。オーバールックは、古いホテルでもありますから、毎日のボイラー点検が欠かせないのです。しかし、ジャックが狂気に取り憑かれてから、その点検がなされておらず、クライマックスはやはり、「魔物」にこころを占拠されたジャックが、慌てふためきながら、ボイラーの調節をするシーンでしょう。しかし、ホテルはボイラーが爆発し、炎上。魔物たちは無惨に死にます。

 

 もうひとつ、REDRUM(レドラム)という謎の言葉ですね。なんだろうと思っていると、二重写しになった硝子に、REDRUM(レドラム)のアナグラムが浮かびあがります。つまり、MURDER(殺人)ですね。これがわかったときは怖いですよね。

 

この作品は、キング得意の「ホラー」です。たしかに、作者がもう、自分も楽しみながら書いた、というような感じがひしひしと伝わってくる作品です。
(『シャイニング』は文春文庫から刊行されています)

 


シャイニング (字幕版)

 


シャイニング(上) (文春文庫)

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