小説『777』ー⑧ー にゃんく

777

 ー⑧ー 

にゃんく

 

 

 

カケル君とのコンビでいったんは持ち直したに見えた収支もくだり坂を転がるようにマイナスの一途をたどっていった。勝ちの味をしめたみっくんは、大敗すればするほど、スロットにのめり込んだ。ますます過激に自分の時間から、生活から、能力から、体力まで。何から何まであらゆることをスロットにつぎ込んだ。

 あれから一年が経ち、季節はみっくんがはじめてスロットを経験した冬に戻ろうとしていた。

 ミミラはみっくんがどんなに高価なプレゼントを買い与えても(みっくんのプレゼントでいちばん値が張ったのは指輪だったけれど、他のあらゆるプレゼントを贈ったあとと同じように、みっくんはミミラとキスのひとつもしたことがないままであった)、みっくんが何年かに一度来店するかしないかくらいの高級レストランに連れて行っても、その場で一時的な喜びを見せるだけで、彼女のこころを摑むことはできないようであった。みっくんはいつまで経っても、ミミラの本名を知らなかったし、彼女の家が何処にあるのかも知らなかった。みっくんが知っていることと言えば、ミミラと逢う時はとんでもない金がかかることと、金がなければミミラとは一分も逢えない、という絶望的な事実であった。

 

 みっくんは消費者金融から再び金を借りるようになった。借りたり返したりを繰り返しているうちに、消費者金融を利用することにそれほど抵抗もなくなった。

 けれどいつかスロットで負けた分を取り返せると思いつつ、毎日パチスロに通ううちに、負けが重なり、借り入れの五十万が容易に返せなくなっていた。

それでもみっくんはどうしても金がないとき、後輩の数名に頼み込んで金を借りた。皆嫌そうな顔をしたけれど、みっくんが粘って頼むと、面倒くさそうに五千円とか一万円を貸してくれた。そのうち後輩たちは、みっくんに会うと金をせびられるから、みっくんの前に姿を現さなくなった。みっくんは陰でヒソヒソと自分の噂話をされているのを感じていたけれど、誰もみっくんに、どうしてそれほど金が必要なのか、何につぎ込んでいるのか、話をきいてくれる者はいなかった。

 知人から金を借りることができなくなると、みっくんが目をつけたのは、寮の金だった。幸か不幸か、去年の十月の役員交代の際に、みっくんは寮の会計係を担当していた。

 会計係は副寮長にあたり、寮員五十名ほどから毎月徴収している寮費一万二千円を管理したり、寮の食事を作っている寮母さんに手当を渡したり、寮の備品を購入・修理したり、といった仕事をしていた。

 会計係の、毎月課長の決裁をもらったり、出納簿をつけたりといった事務はたしかに面倒だった。けれどお誂え向きに、みっくんは寮員から徴収した金を保管する金庫を自室に預かっていたのである。

 みっくんはその金に手をつけたのである。

 金庫の中身は、百二十万円ちかく貯まっていた。

 寮祭をやる年もあるし、やらない年もある。そういう行事がなければ、それは特に使うことのない金だった。だからどんどん貯まる。

 出納簿はチェックされるが、金庫の中身まではチェックされない。それをいいことに、みっくんは金庫のなかの金をこっそり私用に使うようになった。着服するのではない。一時的に立て替えるだけなのだ。今はマイナスになっているが、スロットで勝ってプラスになったときに、拝借した金を戻せばいい。

 そうすれば自分以外、他の人間には誰もわからない。みっくんは隠れてそのような犯罪を行い、素知らぬ顔をして仕事をしていた。

 けれど仕事中に上司に呼び止められるたびに、みっくんは、自らの横領が発覚したのではないかと気が気ではなかった。そして上司が用件を口にするより前に、己の横領行為の言い訳を口にしそうになったりした。

 

 しかし上司の問いは、いつも寮の金のことなどではなかった。

 もっと職務質問をして自転車泥棒の犯人を捕まえろだとか、もっと交通違反を取り締まって取締り件数を増やせだとか、そのような、みっくんにとってはどうでもいいような仕事の話ばかりである。

 

 彼らはみっくんが横領行為に手を染めていることなんか、想像だにしていなかった。そのことがわかると、みっくんはそのたびほっと胸を撫でおろした。

 

 

 

 

つづく

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執筆者紹介

 

にゃんく

 

にゃんころがりmagazine編集長。
X JAPANのファン。カレーも大好き。

 

 

 

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