『偸盗(ちゅうとう)』(芥川龍之介著)小説レビュー

芥川龍之介(作/矢野ハワイ)

 

Writer/にゃんく

 

今回のNOVEL REVIEWは、 芥川龍之介著『偸盗』(ちゅうとう)です。


『偸盗』は、高校生だった当時、文豪の作品を読みはじめていたぼくが、特に芥川の作品のなかでも、大好きだった作品で、『偸盗』ばかり繰り返し読んで、芥川の文筆力の凄まじさに感心していました。

『偸盗』内での、兄弟間の葛藤というテーマが気に入っていました。

 

STORY

 

時は、平安時代末期頃だと思われます(西暦1100年ごろでしょうか)。


羅生門を根城に、殺人や盗みなどを生業(なりわい)とする賊がいます。


その賊に名をつらねる、太郎と次郎という兄弟がいます。

元はと言えば、太郎も次郎も今でいえば公務員的な、まっとうな仕事に就いていた人間たちでしたが、ある事情があって、物語が語られる時点では、賊に身をやつしています。


太郎はむかし、放免をしていました。放免とは、檻に入れられた犯罪者を逃げないように見張っている仕事です。

 

ある時、沙金(しゃきん)という、美しい女が何かの罪で捕まり、牢屋に入れられます。太郎は、沙金の美しさに見入られ、本来、賊の一味が沙金を助けに来たときにその仕事がら撃退をしなければならなかったのですが、職務を全うすることができず、彼女が牢屋から逃げるのを見逃してしまいます。

しかし、その目配せにより、太郎は沙金と親しくなり、彼女と肉体的な関係を持つまでになります。

 

それから沙金とつきあう内に、太郎は、沙金が、男であれば誰とでも交わるような女であることが分かってきます(沙金は、自分の養父とも交わります)。

それは沙金がこの時代生きていく上で、やむを得ない側面もあるのですが、太郎にはそれがだんだん許せなくなっていきます。しかし、沙金がそのような女であることを理解した上でも、太郎は、彼女が発する魅力にますます惹きつけられるようになっていきます。

 

 そんなある時、弟の次郎が窃盗の容疑で収監されます。太郎はそのとき沙金に入れ知恵されて、檻を守る同僚を殺し、次郎を逃がしてしまいます。
沙金の言いなりになる太郎は、悪魔に魅入られるようにして、放免を辞め、賊の一味となります。

 さらに太郎にとって悪いことが起こります。沙金が、次郎と男女の仲になってしまうのです。沙金の振る舞いに我慢していた太郎ですが、さすがにこれには我慢ができません。

以前は仲のよかった兄弟の関係も、これを機に険悪なものとなります。太郎と次郎は、お互いの命を狙うまでになります。

 

 物語の時間は、徐々にクライマックスへ近づいていきます。つまり、賊の、藤判官の屋敷への強盗の日が迫ってきたのです。ご多分に漏れず、藤判官の屋敷で、盗みや殺しを思う存分行おうというのです。

 

 ですが、これには裏がありました。沙金の画策です。つまり、沙金は、藤判官の屋敷の男と親しくなり、強盗の計画を、あえて漏らします。そうすることによって、太郎を殺害しようというのです。

このとき、次郎と懇ろな仲になっていた沙金は、病気のために、顔面に醜い痕が残った容姿の太郎をうとましく思っており、死んでほしいと思っていたために、藤判官の手の者に、それを実行させることができれば、と悪巧みをしたのです。


愛人の仲になっていた沙金からその秘密を告白され、次郎は悩みます。

が、とうとう、兄の太郎を殺すという、悪魔のような計画に同意してしまいます。

 

 そして、ついに、賊の、藤判官の屋敷への強盗が決行されます。

沙金のリークにより、藤判官の屋敷側は準備をしていますから、もちろん、戦闘は終始、賊側が苦戦します。

賊の人間が何人も死んでゆくなか、逆に、次郎の身にまで危険がおよびます。次郎は、野犬数十匹にかこまれ、野良犬に喰い殺されそうになります。

(人間の味を知った野良犬は、兇暴です)。あわや絶命かと思われたそのとき、太郎があらわれます。太郎は、良馬に乗っていました。それは、以前から、沙金が目をつけていた馬です。

太郎は、それを藤判官から奪い、沙金にプレゼントするために、重囲を突破し、命からがら奪い乗ってきたのです。

対立していた弟の次郎の窮地に、太郎は、馬を走らせ、その場を去ろうとします。次郎のことを見捨てようとした太郎ですが……

 

REVIEW

 

「偸盗」は芥川の、王朝ものの作品の一つで、1917年に発表されました。芥川の初期から中期にかけての作品です。


『偸盗』は、兄弟がお互いの対立をのりこえ、自らの心の悪魔を退治する物語であるとも言えます。

 

 作品内には、対の要素が散りばめられています。


つまり、容貌が醜い太郎にたいし、容姿のきれいな次郎。


他には、阿呆で醜いけれど純粋な阿濃(あこぎ)という女がいます。
阿濃はいちおう賊の者が面倒をみていますが、賊の男たちにいいように輪姦され、子供を妊娠していますが、その子は誰の子かわかりません。

阿濃に対しては、奸智にたけた、美しい沙金が配置されています。


物語の最後で、阿濃は子を生み、沙金は命を絶たれます。これも対になっています。つまり、一方は命の誕生、もう一方は死という具合に。

ストーリー上、正反対の末路が、コントラストを際立たせています。

 

 『偸盗』は、青空文庫で無料で読むこともできます。


『偸盗』を読めば、芥川の凄さがわかります。


羅生門のまわりの、荒涼とした世界が見えてきます。


フィクションなのに、登場人物たちのリアルな葛藤がつたわってきます。


これを機に、芥川龍之介を再読されてみてはいかがでしょうか?

 

 


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