『深夜特急1 香港・マカオ』ブックレビュー(沢木耕太郎著)~「一年以上にわたるユーラシア放浪が、いま始まった」

 


深夜特急1-香港・マカオ- (新潮文庫)

 

wrtiter/にゃんく

 

今回は、ベストセラー『深夜特急1 香港・マカオ』(沢木耕太郎/著)のブックレビューです。

 

1986年に刊行された本書は、以降、バックパッカーたちのあいだで、バイブル的な存在となり、90年代にいたるまで、日本の個人旅行者を増やしつづけました。


旅には、出逢いがあり、ロマンがあります。別れがあり、事件があります。そして、波乱万丈なドラマがあります。

ぼくも、この本を学生のころ読んで、憧れて海外に旅に出た経験のある一人です。


今回は、ブックレビューというテーマでこの記事を投稿していますが、本書を、ただの旅行案内本ではなく、波乱万丈の物語が内包されているという意味で、「優れた小説」とみなすことも可能です。


以下、内容を紹介していきます。

文庫版の裏表紙には、こう書かれています。
「インドのデリーからイギリスのロンドンまで、乗合いバスで行く――。ある日そう思い立った26歳の<私>は、仕事をすべて投げ出して旅に出た。途中立ち寄った香港では、街の熱気に酔い痴れて、思わぬ長居をしてしまう。マカオでは、「大小(タイスウ)」というサイコロ博奕に魅せられ、あわや……。一年以上にわたるユーラシア放浪が、今始まった。いざ、遠路二万キロ彼方のロンドンへ!」

1巻では、まだロンドンまで行かなくて、タイトルにあるように、香港やマカオで主人公が経験したことが書かれています。

日本を出発して香港に着くと、飛行機に乗り合わせてきた若い美しい日本の女が、「私」に声をかけてきます。いわく、日本で知り合った香港人と再会をしに来たのですが、香港には初めて来たので、地理も言葉もわからない。不安だから、申し訳ないけれど、街の中心部まで一緒に連れて行ってくれないか――。


そして、「私」は、美人の彼女と行動を共にします。そして、もし日本で知り合ったというその香港人と、彼女が再会できなかったらどうするか? ホテルで同じ部屋をとってあげた方がいいのではないかなど、いろいろと先のことまで心配します。

が、待ち合わせ場所に着くと、彼女が探していた香港人の若い男があっさり現れます。しかも、運転手付きのベンツに乗って。

結局、「私」は、その香港人に、おすすめのホテルを紹介してもらって、美人の彼女と別れます。


「私」がタクシーに運ばれ、たどり着いたのは、「連れ込み宿」化している香港の安い宿でした。

そこは、夜になると、隣の部屋から、女のあえぎ声が聞こえてくるところでしたが、窓から見える、隣の建物には、窓がたくさん並んでいて、香港の人たちの飾らない日常生活が垣間見えていました。

「私」は、でかいゴキブリがベッドの下を這い回るこの安宿(「黄金宮殿」)を、気に入って、滞在をすることに決めます。

また、「私」は、マカオに移動し、そこで、大小(タイスウ)」というサイコロ博奕(とばく)を観察します。

「私」はサイコロ博奕にのめりこんでいきますが、あるディーラーが、「私」に声をかけてきます。

「ギャンブル、やらない方がいい」。
話を聞いてみると、そのディーラーは、自分が3歳のときに、母親が日本へ帰って行ってしまったのだそうです。母親は日本人で、名前もわかりません。

「私」は、そのディーラーのことが哀れになり、母親を捜してやりたいと思いますが、名前もわからないこのディーラーの母親を捜すことを不可能だと思います。


ギャンブルをやらないほうがいいと忠告するディーラーと別れると、「私」はこんどは別の場所で、別のディーラーたちが行っているイカサマを、鋭い観察眼で見抜きます。


ディーラーたちは、技術のすべてを使い、その場を盛り上げるだけ盛り上げ、客に持ち金をすべて賭けさせたときに、店側が客の賭けた金を没収できる「ゾロ目」を出すという、インチキを使っているのでした。


そのカラクリを見ぬいた「私」は、逆に店側を出し抜き、それまで負けた金を店から取りもどそうとします。……

そして、プロのディーラーたちと、有り金の大半を賭けた勝負に打って出ます。
あわや大事な旅行費の大半を失いかける主人公でしたが……。


主人公がイケメンだからなのか、性格が良いからかなのかはわかりませんが、行く先々で、どんどん知り合いができて、友達ができて、また、美しい女性との出会いがあり、そして、チャンスがあります(何のチャンス?)。


主人公の、日本での生活、仕事などの話は全然出てこなくて、記述のほとんどが、旅先での話になります。それも、読者が主人公に感情移入しやすくなる要因かと思われます。日本でのせせこましい話など、大方の読者は読みたくありませんよね。やっぱりみんな、未知の、ワクワクするロマンが読みたいのです。


ずばり、この本を読んで、旅に出たくなります。


ただ実際、海外旅行に行ってみて、『深夜特急』の主人公のように、行く先々でロマンがあるかどうかは保証はできませんけれど。

 

 


深夜特急1-香港・マカオ- (新潮文庫)

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