『追憶』CINEMA REVIEW~「25年の時を経て、交錯する7人の愛の行方」

 

writer/K・Kaz

          

              
今回は、現在上映中の邦画『追憶』のレビューをおとどけします。

 

STORY(一部、ネタバレあり)

 

 25年前、能登半島にある喫茶店で、店主・涼子はアツシ・ケイタ・サトシの3人の少年と涼子に思いを寄せる常連客・山形も加わって5人で家族のように暮らしていました。

家出してきたケイタ、母親に捨てられて独りぼっちだったアツシ、養護施設を脱走してきたサトシにとって初めて安心できる場所でした。
しかし、涼子と昔付き合っていたヤクザ・貴船が喫茶店にやって来て居座り、涼子にも暴行を加えるようになります。自分たちに家族の温かさを教えてくれた涼子を救うため、3人は貴船を殺そうと金属バットをもって身をひそめ、背後から襲撃しますが、失敗します。

逆上した貴船は、少年たちに襲いかかかろうとしますが、涼子が止めに入る寸前にケイタがナイフでとどめを刺します。

 血まみれの貴船を前に呆然とする3人に対して、涼子は「全て忘れなさい」と3人に言い含め、代わりに自首します。それっきり、3人はバラバラとなり、会うことはありませんでした。

 

 

 そして時間は流れ、成長したアツシこと四方篤は、富山市内で刑事となっていました。刑事としてのキャリアは順調でしたが、その反面、私生活はうまく行かず、保育士として働いていた美那子と結婚して5年経過しても子供に恵まれず、すれ違いを修正できないまま別居状態が続いています。

 また、幼少時に篤を放置した母は、精神的に不安定な状態が続いていました。その日も、筋の悪い借金を作ってしまったと泣きながら電話をかけてきて、篤は金を渡したものの、ついつい説教じみた事を言って険悪な雰囲気になってしまうのでした。

  そんな時、ラーメン屋でサトシ―川端悟と再会します。悟は都内のガラス職人として入婿となり、義父の跡を継いで工務店の社長となったものの、社員一人にも給与を遅配するほど経営難に陥っていました。

 酒に酔った悟は、
「実はケイちゃんに金を借りに来たんだ」
と自嘲気味に告白し、別れ際には、
「アッちゃんは忘れていいんだよ」
「ケイちゃんに任せておけば大丈夫だから」
とアツシに告げたのでした。

悟が、今は土建屋をしている田所啓太と何度か会っていたとはじめて知った篤は、過去の事件の事が明るみに出るのではないかと内心焦りを覚えずにはいられません。

 その次の日、篤は、刺殺体が発見されたとの報せを受けて現場に急行します。
現場で、被害者が悟であることに気付いて、篤は驚愕しますが、自分との関係を上司に告白することができず、単独で啓太の元に向かいます。

 25年ぶりに再会した啓太は、
「過去の事件のことをネタに金を要求され、殺してしまったのではないか?」
と篤が疑っているのを見透かすように、
「俺は何も知らない」
と言うだけで何も答えようとしません。
 本当に啓太は悟を殺していないのか?
 悟が殺される直前に話していたという、
「ずっと会いたかった人に会えた」
 とは誰の事なのか?

 啓太が守ろうとしている秘密とは何なのか?

 篤は悟の事務所に残された封筒にメモされていた「あんどの里」に向かうのでした。

 

 

REVIEW

 

 刑事となった今でも過去の事件が原因で誰にも心を開けない篤、やっと手に入れた家族を守ろうと必死になる悟、過去を乗り越えて幸せを手に入れようとしている啓太、暗い過去を背負ってしまった3人の濃厚なドラマが本作品の見どころの一つです。

 3人の誰もが完璧ではなく、悩みを抱えて日々もがいているところが人間味を感じられるところでした。

 特に、気持ちの通じない妻や、迷惑ばかりかける母親に苛立つ篤が、捜査本部に隠しごとをしてまで真相を探ろうとする中で、自分の過去と向き合ってゆく様子が丹念に描かれています。

  3人を演じるのは岡田准一さん・小栗旬さん・榎本佑さんと実力派ぞろいで、その人物の弱さや影の部分まで見えるようでした。

  さらに、映像にも力が入っています。特に喫茶店がある岬の夕日はドロドロした事件の汚れを洗い流すような美しさでした。

 

 よく見ると、エンドロールの撮影者の中に岡田さんの名前もあります。インタビューによると撮影監督・木村大作さんの計らいで岡田さんもカメラをのぞかせてもらったそうです。もしかしたら監督の旗振康夫さんや木村大作さんは若い岡田さんや小栗さんたち若手俳優に、映画撮影を通して次代の映画界を託そうとしているのかもしれないと思いました。

 

  どちらかと言えば人間ドラマに重点が置かれ謎解きはあっさりしていて物足りない感がありましたが、日本映画の良さが詰め込まれながら若々しいパワーも感じる作品でした。

  本作品の評価は星3.5とさせて頂きます。

 

 

 

K・Kazのこの映画の評価3.5

 

 

 


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執筆者紹介

writer/K・Kaz
石川県在住の男性です。
週末には、映画を5~7本ペースで観ていらっしゃるそうです。

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