ショート小説「願いよ、叶え!」

パパの会社が倒産しそうだ。友達に騙されて会社のお金を持ち逃げされたそうだ。お金が無くなったらやっていけない。離婚する!とママは息巻いて喧嘩ばかりしている。何とかしたいけれど、十歳の僕には何もできない。
ここはもう、あの噂に頼るしかない。
今年は四年に一度、二月が二十九日まである年だ。その二十九日に子供番組「ポンチッチ」に出てくる緑の恐竜「ガチョピン」は実はガチョピンじゃない。そっくりの「ガチピン」だ。この「ガチピン」に本当に困っている子供が頼めば、どんな事でも悩みも解決してくれるそうだ。そして今日は二月二十九日。きっとこれは偶然じゃない。授業が終わるや否や、僕は学校を飛び出していた。
しかし、いきなり困った。何処へ行けばいいか分からない。どうしよう・・・突然キーッと甲高い音がして「どこ見て歩いてるんだ!」と怒鳴り声が降ってきた。気が付くと僕が立っているのは道路の真ん中で、横には男の人が乗ったバイクが止まっていた。悩んでいるうちに、いつの間にか道路にフラフラと歩きだしてしまっていたみたいだ。
「僕、ポンチッチを撮影してる場所に行きたいんです。知りませんか?」
「ポンチッチ?あの子供番組の?撮影場所なんて知らないなぁ」
「そうですか・・・」
「でも君は運がいい。場所は知らないが、知ってそうな奴は知ってる」
「本当ですか?」
聞けば、おじさんの友達にポンチッチを放送している局で番組を作っている人がいるらしい。親切なおじさんは、これからその人のところに連れて行ってあげようと言ってくれた。
「二月二十九日の噂は知ってるよ。ガチピンにお願いするんだろう?きっと大丈夫。叶うべき願いがある子供は不思議と彼に巡り合えるそうだから」
おじさんはそう言って僕を励ましてくれた。

「ポンチッチの収録場所は知ってるけど・・・」
おじさんが紹介してくれたディレクターさんは、僕の話を聞くうちにだんだんと渋い顔になっていった。
「その場所、ここから五〇kmくらいある離島なんだ。今から行っても収録の終わりまでに間に合うどうか・・・それに、どうやってそこまで行く?船も飛行機ももう無いよ」。
僕は頭が真っ白になった。どうしたらいいかなんて分かる訳ないよ!
その時、後ろから声がした。
「坊や、その島に連れて行ってあげるよ」
振り向くと、さっきまで撮影していたドラマに出ていた俳優、星健太郎さんだった。
「今から飛行場に行って、僕のセスナで連れて行ってあげよう」
島へ行ける!しかも星さんのセスナで!
「でも、何で僕の為にそこまで?」
「何でかな・・・そう言えば知ってる?ガチピンはどうやって願いを叶えるか。彼はずっと昔から子供達のヒーローだった。子供はやがて大人になる。彼らの中には偉くなった人もたくさんいる。でも彼らの中でやっぱりガチョピンはヒーローなんだ。頼まれれば喜んで何でもやるから、どんな願いでもガチで叶う。だから「ガチピン」だ。そして、願いがある子供達のサポートをする人も色々な所にいるそうだよ。あくまで噂だけどね」
星さんは早口で話しながらタクシーに乗り込み、僕を飛行場に連れて行ってくれた。

島に着いた頃にはもう日が暮れていた。飛行場に入った途端、星さんが声を上げた。
「あっ、ガチョピンがあそこに!」
指さす方向、飛行場のロビーには探し求めていたガチョピンが立っていて、周りには人だかりが出来ていた。「いた!」―そう思った時には全力で駆け出していた。
「ガチョピンさん!いえ、ガチピンさん、お願いがあるんです。聞いてください!」
駆け寄った僕を、ガチョピンは柔らかい腕で抱き留めてくれた。
「君もガチピンさんの噂を聞いて来たんだね。でも、残念ながら僕はガチョピンなんだ。ガチピンさんの回の収録は一週間前に終わっているんだ」
しまった、撮影した映像をリアルタイムで放送するわけがなかった!
「ガチピンさんじゃない?だったら僕のお願いは叶わないってこと?」
せっかくここまで来たのに・・・
「でも、ガチピンさんに君のお願いを伝える事は出来るよ」
「えっ本当に?!」
「もう大丈夫。僕に辿り着いたって事は、きっと君は叶うべき願いを持ってるんだね」
そして一週間後、パパを騙した奴が捕まって会社は倒産しなくて済んだ。

以上が十年前の話。あの日から僕は二月二十九日になると困っていそうな子供を探す。これまで助けてもらった人達と同じように、ガチピンさんを探している子供がいたら手助けするために。それが願いを叶えてもらった者の使命だから。

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