『あひる』小説レビュー~「かわいい」は悲劇?!


あひる (角川文庫) [ 今村 夏子 ]

 

writer/にゃんく

 

 

小説『あひる』は、第155回芥川賞候補作になった作品です。

それでは、小説『あひる』のストーリー紹介から。

 

STORY

 

 ある日、医療系の資格をとるために、実家で勉強をしている女性(20代くらいでしょうか?)の家に、一匹のあひるがやって来ます。あひるの名前は、「のりたま」。飼い主が引っ越しをすることになり飼えなくなったため、知り合いだった両親の家にのりたまは引き取られることになったのです。
 物語は、両親のむすめである「わたし」の視線で語られます。
 女性である「わたし」には弟がいますが、弟はすでに結婚していて、弟は妻とふたりで違う場所に住んでいます。
 弟が結婚して家を出てからというもの、両親のあいだでは会話が途絶えがちになっています。けれど、あひるの「のりたま」がやって来てからは、家庭も活気をとりもどしはじめます。

 

 通学途中の小学生たちが、庭の小屋にいるあひるを見つけ、のりたまはみんなの人気者になります。
 両親は子どもたちを部屋に招きいれ、おかしを与えたり、勉強させたり、ご馳走まで準備して、(弟が家を出てから両親にとって)張り合いのなかった毎日がウソのように充実してくるのでした。
 資格をとるために勉強をしている「わたし」は、だんだんにぎやかになってくる家庭環境に、心のなかでは「うるさいなあ」と思いながらも、嬉しく思っています(たぶん)。

 

 けれど、子どもたちが散歩に連れて行ったりして引っ張りだこの「のりたま」も、一ヶ月くらいしてだんだん弱ってきて病気になってしまいます。

 

 ある日、とつぜん姿を消したのりたまに、驚いている「わたし」ですが、のりたまは病院へ連れて行かされたと聞かされます。
 しばらくして病院から戻ってきたあひるですが、よく見ると、前にいた「のりたま」ではありません。「わたし」はそのことに気づきますが、両親がそのことに気づいているのか気づいていないのか、触れようとしないので、黙っています。

 

 やがて、二匹めの「のりたま」も一匹めと同じくらいの期間で弱ってしまい、病気になり、また同じように病院へ連れて行かれます。
 そして、病院からもどってきたあひるは、前にいた「のりたま」とは明らかに全くちがったあひるなのでした。……

 

REVIEW

 

 あひるの「のりたま」は、想像するだけでもほほえましい存在です。
 でも、ストーリー紹介を読めばわかるように、「のりたま」はかわいそうなことになりますね。3匹とも、死んでしまいますからね。
 これは、一匹のヨチヨチ歩きのアヒルが、家庭を救う話でもあります。
 あひるが象徴しているものは何でしょう?
 「幸せな家庭」でしょうか? 「かわいそうな犠牲者」でしょうか?

 『あひる』は、不思議な感触を残す佳品です。

 

 シンボルとか、メタファーとか、そんなことを考えても面白いですし、考えなくてもスラスラ楽しんで、漫画のように読める作品です。

 

 結局、「のりたま」は合計3匹やって来ます。
 「のりたま」は、3匹とも死んでしまいますが、どの3匹も、この家庭を救ってくれます。
 そして、4匹めのあひるはやって来ませんでした。
 なぜでしょうか?

 

 それは、作品を読んでのお楽しみ、ということで。

 

 この作者のデビュー作である『こちらあみ子』でも、不良の弟が登場してきました。『あひる』でも、弟が重要な転機をもたらします。

 

 作者さんは、もしかしたら、実生活でも、弟さんがいらっしゃるのかもしれません。
 不良の弟という設定が、現実感があっておもしろいですね。

 

 

本作の評価は、4.5とさせていただきます。

 

*レーティング評価(本ブログ内での定義)

☆☆☆☆☆(星5) 93点~100点
☆☆☆☆★(星4,5) 92点
☆☆☆☆(星4) 83点~91点
☆☆☆(星3) 69点~82点

 

 

 

レビュー執筆者紹介

 

 

 

 

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