幕末太陽傳 デジタル修復版 Blu-ray プレミアム・エディション
今回は、邦画「幕末太陽傳」のレビューをお送りします。
writer/K・Kaz
STORY
文久2年(1862年)。
江戸に隣接する品川宿が舞台です。
遊郭旅籠の相模屋に、遊び人ふうの佐平次とその仲間たちが、やって来ます。
豪遊した次の日の朝、ひとり残った佐平次のところに、店の者が勘定をもらいに来ます。
しかし、なんと佐平次は、
「じつは、金がない」
と打ちあけます。
さらに、あっけにとられる店の者に、
「俺が、勘定分、ここで働いてやるよ」
と胸をはり、相模屋に長居を決めこんでしまいます。
いかにも遊び人の佐平次ですが、持ち前の機転で、人気を二分する太夫のおそめ・こはるの両方にうまく取りいったり、嫌な客に当たって困っている女郎衆の力になってやったりと、八面六臂(はちめんろっぴ)の活躍をします(*注 ものすごい活躍をすること)。
果ては、この旅籠(はたご)に長期逗留(とうりゅう)する高杉晋作や、攘夷派の志士たちとも懇意になります。
そして、知らず知らずのうちに、志士たちが起こした英国領事館の焼き討ち計画の片棒を担いでしまうのでした。
REVIEW
1957年公開の古い作品です。
落語「居残り佐平次」をベースにして、他にもさまざまな噺(はなし)が少しずつ盛りこまれています。
佐平次が遊郭中を走りまわって、次々とトラブルを解決してゆく姿は、スピード感にあふれています。スッキリと、気持ちの良い喜劇です。
遊び人ながら、機転がきいて器用な佐平次だけでなく、金に汚い相模屋の主人ふうふや、父親の借金のカタに相模屋の女中となったおひさ、彼女に言いよる相模屋の若だんななど、個性的な登場人物がたくさん出てきてストーリーにいろどりを添えています。
しかし、単純に楽しく明るいばかりではありません。
万事調子よくことを運ぶ佐平次ですが、ときどき調子が悪そうなようすを見せます。
本人は、
「悪い風邪を患っておりまして」
とうそぶいていますが、段々と悪くなってゆくように見え、能天気に明るい雰囲気にときどき影を差します。軽薄(けいはく)で表面ばかりの楽しさにあふれる遊郭の毎日の裏側をかいま見たようでドキッとさせられます。
しかし、楽しいばかりが人生じゃないと教えられるようで、それが作品を深いものにしてくれています。
この作品を作った川島雄三監督は、筋肉が萎縮する病を患っており、それが佐平次にも投影されているように感じました。
この作品が発表された当時は、「七人の侍」など重く文学的な映画が良いとされたそうです。川島監督はそれに反旗を翻したかったのかもしれません。裏に逃れられない苦しみや暗さを押し込めながら、軽薄な男が世の中をうまくわたり歩いてゆく作品を作りこみ、当時の風潮に真っ向から立ち向かいました。
そう思ってみると、反骨精神に溢れた作品だとも思いました。
余談ですが、『幕末太陽傳』の制作過程とそれに至る川島の生涯は『栄光なき天才たち』(集英社文庫版第2巻)に描かれております。
また、川島監督の他の作品には面白いものがたくさんあります。興味のある方は是非そちらも観ていただきたいと思います。
この作品の評価は星4とさせて頂きます。なんど見ても面白い作品で、日本映画の歴史的傑作だと思います。
K・Kazのこの映画の評価4
(本サイトでの、レーティング評価の定義)
☆☆☆☆☆(星5)93点~100点
☆☆☆☆★(星4.5)92点
☆☆☆☆(星4)83点~91点
☆☆☆★(星3.5)80点~82点
☆☆☆(星3)69点~79点
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