『メジャー3rd~夢の舞台へ駆け上がれ!~』にゃんマガが世界にほこるプロ級作家:山城窓の新作!

メジャー3rd  ~夢の舞台へ駆け上がれ!~

 

山城窓

 

 

「おはようございます!」快晴の青空の下に、希望に溢れた若々しい声が響く。
「ああ、タカハシか。おはよ。早いね」
「いえいえ、ヒシドメさんのほうが早いじゃないっすか? 何時入りしてるんですか?」
「俺? 俺は11時には来てたよ」
「マジっすか? 今日ナイターなのに。すげえ。やっぱりしっかり準備してるんですね」
「いや、別に。俺はこれが普通だからね」
「そうなんだ。やっぱりメジャーリーグ帰りは違いますよね。メジャーの選手はみんなそうなんですか?」
「いやいや、そんなことないよ。あいつらはもっとのんびりやってるよ。ただ…そうだな。みんな自分のペースを大事にしてる。俺にとってはやっぱり余裕持って行動するっていうのが自分のペースだから」
「へえ~そうなんだ。やっぱりメジャーは選手がそれぞれ自由にやってるんですね」
「ま、そんな感じだね」答えるヒシドメは貫録たっぷりで、身にまとうオーラがメジャーリーガーのそれだ。
 そんなヒシドメをタカハシは羨望のまなざしで見つめている。ストレッチを並んで一緒にやっているだけで、誇らしくも思える。そしてタカハシの決意は固まっていく。自分も来シーズンには必ず、メジャーの舞台に立って見せる、と。
 しかし不安もある。そんな想いでタカハシは、メジャーリーグ帰りのヒシドメに訊いてみる。
「実際どうなんですか? メジャーってやっぱり日本とはいろいろ違うんですか?」
「そりゃ違うだろうな。日本ほど秩序とか管理とかないからね」
「例えば?」
「メジャーの選手はねえ……ときどきヘルメットをかじっている」
「マジっすか? なんでヘルメットかじるんすか?」
「集中力を高めるためだそうだ。同時に自分の中の野生を呼び覚まして瞬発力を高める効果ってのもあるらしい」
「でも、誰がそんなことを?」
「マリアーノ・リベラとか……ディレク・ジーターとか……東海岸のチームに多いね」
「……やっぱ本場は違いますね。他に違うところってありますか?」
「二試合続けてリリーフに失敗すると、少しくりぬかれる」
「くりぬかれる?」
「そう、くりぬかれる」
「どこを?」
「目立たないところだよ。わき腹が一般的かな」
「そうなんすか?」
「だからオカジマは絶対に二試合続けてリリーフを失敗しなかっただろう? 日本ではそんな安定感なかったのにね」
「なるほど」
「逆にあんまり活躍すると、その少し下のレベルの選手から夜中に無言電話が繰り返される」
「メジャーって結構陰湿なんですね?」
「そう、それを乗り越えていくからこそ、一流と呼ばれる選手はみんなメンタルが強いんだ。それを乗り越えられない選手が薬物に頼るようになる」
 いつのまにか曇りだした空の下、タカハシはうなだれてこぼす。 
「なんだかだんだんメジャーへの憧れがなくなってきましたよ…」
「気持ちが萎えるにはまだまだ早いよ」ヒシドメはニヤッと笑って続ける。「メジャーではもっと幻滅する要素がある。メジャー全体の70パーセントの選手がポルターガイストに悩まされているとか、その他の20パーセントは糖尿病に悩まされているとか、残りの10パーセントはストリッパーを悩ましているとか…」
「もういいですよ。なんか聞きたくないです」
「半透明の選手もいる」
「やめてくださいって」
「上半身が下半身で下半身が上半身の選手も…」
「やめてくださいって。もうたくさんです。何がメジャーだ! 何がナガシマだ!」

 翌朝、スポーツ新聞見出し

”タカハシ、メジャー移籍断念!!”

 

 

 

作者紹介

山城窓[L]

山城窓

 

1978年、大阪出身。男性。
第86回文学界新人賞最終候補
第41回文藝賞最終候補
第2回ダ・ヴィンチ文学賞最終候補
メフィスト賞の誌上座談会(メフィスト2009.VOL3)で応募作品が取り上げられる。
R-1ぐらんぷり2010 2回戦進出
小説作品に、『鏡痛の友人』『変性の”ハバエさん”』などがあります。

 

 

 

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