『階段』(文:みゅーすとれいらむ2 、イラスト:よと)

 

階段

 

文/みゅーすとれいらむ2
イラスト/よと。

 

 

愛子さんの頬に、今後一生消えないだろう傷をつけてしまった。
かっとなったときに手にしていたのはたちばさみだった。
かすったのだろうか。
そのときのことは、よく覚えていない。
気づくと愛子さんは頬を押さえてうずくまっていた。
警察が来た。
連行しますか?
愛子さんはかなりあってから、いいえと言った。
私はいつものように、自分の部屋にいる。
これまでどんな諍いでも、翌日は笑ってくれた愛子さんが、全く目を合わせてくれない。
傷は大丈夫?
と手を伸ばしたら払われた。
私の口が勝手に言う。
自分でやったんじゃないの?
愛子さんの目がぎらっとする。
違うのよ愛子さん。
私そんなこという気ないの、口が勝手に……

 

いつからだろう。
私は愛子さんの前で暴れるようになった。
その前は不安にかられた。
通帳や印鑑の場所が変わっている。
私がおいた場所にない。
私は全部愛子さんのせいだと言った。
そんなこと、かけらも思ってないのに。
愛子さんは勝手に私の部屋に入ったりしない。
引き出しも開けない。
なのに私の口は言う。
何で?
何で?
私は愛子さんが大好きなのよ!

知らない女性がきた。
最近どうですか。
また別の人たちがきた。
少し外出なさいませんか。
同じ年頃の人が集まって、体操したり、お茶飲んだり。
お風呂も入れるのよ。

息子が反対して、参加は取りやめになった。
デイケアというのだと、後で知った。

通帳がない。
しょうがないから再発行。
繰り返したら、通帳の再発行ができなくなった。
別の銀行からは口座を保持しないでくれと言われた。
解約には一人で行けず、愛子さんが付き添ってくれた。
三十万くらい現金が渡された。
愛子さんが預かるという。
私は逆上し、怒鳴り散らしてる。
私、愛子さん信頼してるよ。
何で?
何で私は怒っているの?????

愛子さんはあきらめたように銀行の人に一礼した。
愛子さんはおつかいに行き、私は家に帰った。

翌朝、三十万は影も形もなかった。
愛子さんが銀行の人から受けとって、そのままどこかへ行った。
私の口はそう説明している。
違う。
私は見てた。
私は自分で持って帰った。
手元に五万残して、残りをどこかへ……

どこだろう……

二十五万はみつからない。
私は毎日メモを書き、愛子さんに届ける。

曲がったことをするもんじゃない。
三十万返しなさい。

違う。
受け取ったのは私だ。
預かると言ってくれたのに口角泡飛ばして拒んだのは私だ。
何で書く、それも一日に何十枚も。
やめてと言われてかっとなり、二階の踊り場で暴れた。
暴れてる。
私。
さっきまで布を断っていた。
だから手にたちばさみ持ったまま。
息子の部屋はガラスのはまった扉、廊下にはサッシ窓。
はさみなんか振り回したらガラス割れる、私はみんなわかってる!!

愛子さんは警察を呼び、私を抱きすくめて羽交い締めにした。
私が踊り場から落ちていかないため。
わかっている。
わかっているの。
でも私は暴れ続けて、愛子さんはけがをした。

自分でやったんじゃないの?

自分の口がそう動く。
でも違う。
違うのよ。
ほんとの私はここにいるの。
ここにいるのよ!

 

(了)

 

執筆者紹介

みゅーすとれいらむ2

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