『セナグラ』山城窓~ショートショートの傑作見参!

セナグラ

 

文/山城 窓
イラスト/若奈 wakana

 

 

 

とうとうこの日が来た。背中をグラタンでやけどしてからというもの、ずっと僕はセナグラというあだ名に苦しんでいたが、ようやく僕はそのあだ名から脱却することができるのだ。そのために僕は、禁断の森を分け入り、その奥地で見つけた漆黒の洞窟を抜けて、神聖なる種族だけが立ち入ることができる神殿へとたどり着いた。その神殿では銀河系の外れの惑星セナグラの民と交信することができるというのだ。
そこで僕はセナグラ人にお願いするのだ。セナグラという名の商標権を主張するように。つまりその呼び名を無断で使うなと激しく訴えてもらえれば、僕のそのあだ名は使用を控えざるをえなくなるであろう。僕はまた本名で呼ばれる生活に戻ることができるのだ。
交信の手段は簡単だ。セナグラ人が訪れたときにそこにおいていった、通信機があるのだが、それは携帯電話となんら変わりない。マイクを口に、スピーカーを耳に当てボタンを押せば、まもなくセナグラ人が応答してくれる。しかもその通信機は翻訳機もかねていて、言葉の違いもへっちゃらだ。
「お電話ありがとうございます。こちらセナグラ星、受付アキヨシクミコでございます」
ほら、こんな感じだ。これなら交渉はスムーズに進むだろう。
「お願いがあるんです。僕のことをセナグラと呼ぶものがいるんです。その名を勝手に使うのはそちらさまにとっても迷惑だと思うので、その名を使用するなと訴えてほしいです。よろしいでしょうか?」
「少々お待ちください」
「はい」
緩やかな音楽が流れる。保留音……これも時空を超えてくれるようで僕は穏やかな気持ちになり、やがて眠くすらなってしまう。が寝ている場合じゃない。大事な大事なチャンスなんだ。ここで眠ってはすべてが台無しにさえなりかねない……
「もしもしお電話かわりました」
と突如さっきの人とは違って低い声。男性?  いや、そもそもセナグラ人に性別といったものが存在するのかも僕は知らない。
「あ、はい」
と僕はしどろもどろに返事。
「あのですね。はっきりいいますよ。答えはノーです。だってそうでしょう? そんなこと主張したらね、我々セナグラ人はケツの穴の小さいやつだと思われることでしょうよ。銀河中でね。冗談じゃないですよ。そんなのセナグラ人のケツの穴は地球人の七〇倍にもなるんですよ。それがまるで地球人よりケツの穴が小さいかのようにいわれたんじゃ、たまったもんじゃありませんや」
「はあ…」
いったん諦めかけたが期待しまくって努力もいっぱいしてやっとここまでたどり着いたことを思うと、ちょっと簡単には引き下がれない。
「そんなふうには思いませんから助けると思って……どうにかしてもらえないでしょうか?」
「単に助けるってことならべつにかまいませんよ。それに答えないとセナグラ人は野暮なやつだと思われそうですものね。簡単ですよ。あなたのことをセナグラと呼ぶ人間をどうにかすればよいだけでしょう?」
「まあ、そうですね。はい」
「じゃやっときますよ」
「やっとく?」
「ってかもう済みましたよ。簡単です。今地球に向かって地球人の息の根を止める兵器を打ち出しました。何億光年でもひとっとびですからね。時間も掛からないでしょう。ってかもうその地球人は粉々になっているころですよ。もしもしもしもし………あれ? しまったしまった。ちょっと強力過ぎるやつを打っちゃったみたいだ。こりゃ地球人はすべて死滅するかな……。ま、いっか。面倒くさいやつだったし」

 

 

(おしまい)

 

 

 

 

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