BOOK REVIEW『洗脳 地獄の12年からの生還』(ToshI著)

 

 

ToshIイラスト/にゃん子
文/にゃんく

 

 

1997年、ボーカルとして、人気絶頂にあったなかでのX JAPAN解散。
それからの洗脳騒動……。
この間、Toshlにいったい何があったのか?
自分の身に起こった出来事やこころの内を、すべてありのままに綴ったノンフィクションです。

 

X JAPANのファンならずとも、凄絶な内容に思わず、アクション映画のように、Toshlに迫る危機に手に汗をにぎってしまいます。

でも、これは、驚くべきことに、現実に起こった出来事なのです。
テレビ番組では、ダウンタウンに、「警察に駆け込んだことも、何度もある」と語っていたToshl。それでも、やはり夫婦間の問題として、Toshlを助け出すことが長年誰にもできなかったのでしょう。
Toshlが、MASAYAに上納した金額は、約10億円。
当時、それも、あのX JAPANの元人気ボーカルが、地方のドサ回りをさせられて、CDの販売の営業をさせられたり、トラックの荷台をステージにして、歌をうたい、必死にMASAYAに渡すお金をつくり続けていたのです。

 

その一方で、Toshlの食事は、コンビニのおにぎりだけ……。
身もこころも困憊の果て、Toshlは何度か倒れ、命の危険にさらされます……。

 

毎月、その月つくるお金の額を、MASAYAから宣言させられるToshl。金額がすくないと、暴力をうける有り様です。

逃げ出せばいい、と誰しも思いますが、逃げ出しても連れ戻され、暴力をふるわれます。精神的にも、状況的にも支配され、逃げ出すこともできない日々。
いったい何故このような関係におちこんでしまったのでしょうか?

 

そもそものはじまりは、Toshlの妻となる守谷香との出会いでした。
はじめは、俳優起用のオーディションで、応募してきた守谷香を、Toshlが選んだことで、親交がはじまったようです。
それから、守谷はToshlの心の支えとなっていきます。
その頃、ToshlはX JAPANの活動で悩んでいました。
リーダーのYOSHIKIから、もっと高い表現力をもとめられ、(ウィキでは、高音を要求され、となっています)何度も厳しいダメ出しをされる日々。
「ぼくはYOSHIKIの求めるものに応えられない……」
(YOSHIKIもYOSHIKIで、プロ意識の高い人です。たった一曲作るのに、何ヶ月もかけるほどの、こだわりを持った人です。だからこその、作曲者としてあのクオリティがあるのでしょう。)

 

Toshlは、守谷の助言の影響で、X JAPANのカラーから、すこしずつ遠ざかっていきます。ビジュアル系の外見をやめ、たとえば、他のメンバーは髪を派手に染めて、ビンビンに立たせているのに、自分だけ髪を黒くし、ナチュラルな感じにしたり……。

その後、Toshlは、MASAYA主宰のホームオブハートのセミナーに参加させられることから(妻の守谷の手引きにより。守谷は、MASAYAの愛人のような存在だったようです)、いよいよ搾取と隷従の道へはいっていきます。
そのセミナーは、MASAYAのシナリオ通りに、はじめから仕組まれたものでした。そのセミナーに参加したメンバーも、ホームオブハートのメンバーが大半だったのですが、そのことを知らないToshlは、仕組まれたセミナーで、感動体験をあじわいます。

そして、MASAYAから、「X JAPANは悪の権化だ」と説かれ、悩んでいたToshlは、いよいよ X JAPANからの脱退を表明します。その意志を、幼稚園からの幼馴染みのYOSHIKIも翻意させることができませんでした。
「Toshl! 戻ってこい!」
ファンが涙して呼びかけるフィルムがネットにも残っていますが、とても印象的なシーンです。むしろ、ToshlはX JAPANから離れられることを、このとき、自分にとって良いことだと信じて疑わない、晴れやかな表情をしていました。
でも、このときから既に、MASAYAや守谷の、Toshlへの暴力ははじまっていました。Toshlは、自分が受ける暴力は、MASAYAや守谷が自分のためを思ってしてくれていることだと信じて疑いませんでした。セミナーの感動体験により、Toshlは、MASAYAにお金を上納することすら、自分に課された修業のようなものだと思い込まされていたのです。……

 

あの美しいX JAPANの音楽の裏側には、これだけ激しい葛藤と地獄があったとは!

 

人は、お金のために、どこまで残酷になれるのか?
人は、他人の不幸に、どこまで無関心になれるのか?

 

純粋な人だから、ここまで悪人を信用してしまったToshl。

 

暴力をふるわれているのに逆に相手のことを信用してしまう心理など、いろんなことを考えさせてくれる本です。

 

Toshlはたいへんな経験をしましたが、自分のこころの傷に耐えながら、この本を書き上げたことは、すばらしいです。そして、この体験は、皆で共有するべきものだと考えます。

 

事実は小説より奇なりといいますが、まさにその通り。
この本を読んだあとは、X JAPANの曲は、涙なくして聴けないかもしれません。
ただのタレント本とは一線を画しています。オススメの本です。

 

 


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