『究極の誕生日ー①ー』山城 窓

究極の誕生日
ー①ー

山城 窓

 

 

「どうしておまえはお父さんの言うことを聞けないんだ?」リビングで父は娘に嘆くように問いかける。
「だって今日は遊園地に連れていってくれる約束だったじゃない。お父さんなんて嘘つきだ!」目に涙こそにじんでないが、娘は父を見上げながら言い返す。10歳の誕生日に遊園地に連れて行く……それがこの父が娘と交わした約束だった。
「仕方ないだろう。仕事の付き合いってものがあるんだ」父は慰めるように告げる。「おまえも大人になればわかる。したくないことも、しなきゃ生きていけないってことがな。なんせお父さんだって遊園地に行きたかったんだ。おまえよりもむしろその気持ちは強かっただろう。ジェットコースターは苦手だがその分メリーゴーランドは得意だ。通知票でも5だった。いつも先生に褒められてたよ。『中本、おまえは将来メリーゴーランドになるかもしれんな』ってな」
「言い訳なんか聞きたくない!」
「こら、話を最後まで聞かないのは悪いクセだぞ? お父さんはまだ言い訳なんかしてないだろ? お父さんはな、わけのわからないことを口走ってるんだ」
「いや、どっちにしても聞きたくない」
「大人しく話を聞かないと将来に及んで人格形成に影響を与えるようなトラウマをその小さな脳に刻み込むぞ。おまえはそれでいいのか?」
「どういうこと? よくわからない」
「そうだなあ。おまえに妹を作ってやるよ。おまえの目の前でな」
「だからどういうことなの? お父さんの言うことわからないわ?」
「ガキのくせにカマトトぶりやがって。おまえもう小4だろ?」
「そうよ。それがどうしたって言うのよ?」
「もう違う意味で遊園地を満喫してるんじゃないのか? 夜のフライングカーペットでは絶頂に達してんだろ? へっへっへ」
「お父さんなんて変態だ!」
「解ってるじゃねえか。さすが俺の娘だ。なら話が早い。俺のジェットコースターをおまえのユニバーサルスタジオジャパンの中へ発進させてくれよ」
「近寄らないで。ケダモノ! 私のUSJはまだ開場前よ! お父さんの小汚いジェットコースターで開場なんかさせてたまるもんですか!」
「……どういうことだ?」
「何が?」
「お父さんの言ってる意味がわかるのか?」
「それは……」
「話が噛み合ってるじゃないか?」
「そんなの偶然よ……」
「嘘を付くな。嘘をついてもすぐにわかるぞ。このあばずれ!」
バシッ
「痛い。何するのよ? ぶたなくたっていいじゃない!」
「いいか? よく聞くんだ。おまえはまだ小学生だ。そういった知識を持っていることはとても不自然で……その……いかがわしいことなんだ」
「何で今更照れてるのよ?」
「うるさい。急に恥ずかしくなったんだ。とにかく人前でUSJとか言うんじゃないぞ!」
「お父さん考えすぎだよ。USJは隠語じゃないんだよ? 誰もそこから卑猥な連想しないから。お父さんUSJのことよく知らないからそうなのよ。ほら、ディズニーズニーランドと一緒よ。ミッキーやミニーはいないけど、『バック トウ ザ フューチャー』のデロリアンにも乗れるのよ」
「だから年頃の娘がそういうはしたないことを言うんじゃない!」
「お父さん疲れてるんだよ。『デロリアン』ってタイムマシンなんだよ? スラブ街のドラッグ漬けの獣のようなナンパ黒人男性のニックネームじゃないんだよ?」
「そうなのか?」
「どうして男の人は、女が『乗る』って言うとすぐに騎乗位を思い浮かべるのかしら」と娘は嘆く。それが聞こえていないのか父親はあらぬ方向を見やりながら、
「ん、待てよ、タイムマシンで思い出したぞ……大事なことを」などとブツブツ言っている。
「大事なこと?」そういって首をかしげる娘を、父親はじっと凝視して、独り言のようにつぶやく。
「そうだ、そうだ、おまえの今日の服装もそうだ、いつかどこかで見た気がしていたんだ。すると、今日だ。それが起こるのは今日だ」
 またわけのわからないことを言ってるのだな、と娘は呆れながら父親を眺める。しかし父親のその表情はよく見ると謎が解けたような晴れやかさを纏っていた。
「よし、行くぞ!」と父親が宣う。
「どこに?」
「お前は母さんのことを覚えてないだろう。母さんに会いに行こう」
「母さんに? だって母さんは私が小さいころに死んじゃったはずでしょ?」
「ああ、そうさ。だから10年前に行くんだよ」
「は? どうやって?」
「知らん。理由も理屈もわからん。なんせ神の起こす奇跡だ。そんなこと人間にわかるはずもない」
「なんでもいいけど、仕事の付き合いとやらはいいの?」
「ああ、それよりもっと大事なことがあることを思い出したんだ」

 

 

ー②ーにつづく!

 

 

 

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