【禿の黄金比】純心温

 

【禿の黄金比】

 

純心温

 

 

 

デザインを学べる専門学校に通っていたころのお話です。
同級生の男の子がクラスで可愛いと評判の女の子に告白しました。
結果は振られたのですが、めげずに男の子は告白していました。
すると、気持ち悪いと女の子が親に相談したらしく、一時期学校のちょっとした大きな問題になりました。
非常勤講師として勤めているデザイナーにもそのお話が伝わったらしく授業中、事あるごとに振られた話題について話しだしました。
ただ好き好きっていうのは気持ちを押し付けているだけじゃんね、デザインは違くて気持ちを押しつけるのではなくクライアントの話を聞くところから始めるというふうに。
毎時間授業中ごとに似たような話題を上げるので、さすがに男の子が可哀そうになってきました。
男の子も我慢していたみたいですが。

ある時、その非常勤講師の男の人がクラスの優等生である女の子を陰で誘い、食事に行くことになったのです。
言いかたは悪いですが、講師の方はデザイナーという肩書きで自分をカッコいいと思い込んでいるプライドの高い勘違い系の禿で太った叔父さんでした。
しかし成績にひびくと優等生の女の子は断ることが出来ず、渋々食事に同行することに。
その後もたびたび食事に行っていたみたいですが、女の子の方はイヤイヤでした。

そんなある時、からかわれた男の子が痺れを切らし、講師と優等生の女の子の食事を尾行することに。
私も面白そうだからという理由でその男の子と同行することにしました。
すぐ近くのファミレスで食事をしていることが分かり、講師の位置からバレないよう死角の位置に私たちは座りました。

講師の方に料理が運ばれたとき、おもむろに講師が優等生の女の子に話し始めました。
この皿の形、実に美しい。黄金比と似た感覚がある。
デザイナーである私と愛の黄金比、徐々に築いていこうと、優等生の女の子に言っていました。
もう、この瞬間で私は大笑いしそうになりましたが耐えることに。
男の子はボイスレコーダーでそれを録音しました。

後日、放課後勉強を教えてほしいからという口実を付け、デザイナーと私と男の子で残ることに。
こっちはドキドキでしたが、三人だけとなった放課後。
講師に分からないことを話すので黒板に書き出し整理して欲しいと頼み後ろ向きで書かせている最中、あの例のボイスレコーダーを男の子がポケットから取り出し、流し始めました。
【デザイナーである私と愛の黄金比、私と徐々に築いていこう】
この言葉がシーンとした教室で流れはじめ、もう笑いを堪えるのに私は必死だったけれど、講師は焦ったように私たちの方を振り返りました。
すると男の子が意を決したように席を立ち
「内部告発する、これを理事長にも聞かせるし、オレも問題にする」
と言い出しました。
デザイナーは何も言えず固まってしまい、私にも伝わるくらい困り切っていました。
それでも間髪入れず、男の子は続けて、
「辞めてほしいなら、そこの全身鏡に向かって私の頭は禿の黄金比ですと唱えろ。」
と言い出しました。

プライドの高かった講師ですが急に大人しくなり男の子に言われるがまま、鏡の前に行きました。
言うのか、本当にあのプライドの高い講師が言うのかと私がワクワクとドキドキが入り混じったような感覚になっているさなか、講師の口が開きました。
「私の頭は禿の黄金比です、私の頭は禿の黄金比です、私の頭は禿の黄金比です」
もう、笑いがこらえきれず私は爆笑してしまいました。

男の子は満足したような顔で、
「内部告発はしないから帰っていいよ」
と言いました。
講師は、悔しそうに本当に哀れで悔しそうな顔をしながら黙って足早に階段を上がり職員室に戻っていきました。

それ以降、講師は開き直ったように普通に授業を再開していましたが以前のように男の子をからかう事もなく、優等生の女の子を食事に誘うことなく、平穏な授業がはじまりました。

 

 

 

おしまい

 

 

作者紹介

純心温

デザイン専門、ボクシング、youtube、就労支援のボランティア、バイトと様々な活動をしています。

 

 

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