『にゃん五郎と白ネズミ』おばけちゃん

にゃん五郎と白ネズミ

おばけちゃん

 

 

 四月の昼下がり、窓から射し込む柔らかな日差しが、カーペットを照らす。そこに一匹の猫が丸まって寝ていた。にゃん五郎だ。
「にゃん五郎〜オモチャ買ってきたよ…ってあれ?寝てるのか」
にゃんくがペットショップの袋を提げたまま、にゃん五郎に近づいた。その時である。
にゃん五郎は勘が働いたのか、目をつむったままペットショップの袋を前足でぱしっ、と叩いた。
「あはは、にゃん五郎は鋭いなぁ」
笑って、袋からオモチャを取り出す。それは小さなネズミ型の、走るオモチャだった。
試しにそれを走らせてみると、思いのほかネズミは速く走り出した。フローリングを滑走し、ついには隣のキッチンへと飛んでいってしまったではないか。すぐさま目を輝かせて後を追うにゃん五郎。
「喜んでくれたようでよかった!」
にゃん五郎の後ろ姿を見ながら、にゃんくが微笑んだ。

ネズミはキッチンを走り回り、ダイニングテーブルの下へ潜り込んだかと思うと椅子の脚の間を器用に進む。にゃん五郎がつかまえようと前足を伸ばすが、あとちょっとのところで届かない。ネズミはさらに走り続け、ついには勝手口から外に飛び出してようやく止まった。
にゃん五郎もそれに続いて外に出る。柔らかな芝生が、肉球をチクチクと刺激するのがくすぐったくて、少しその場でタップダンスをした。
「ふう、ようやく止まったニャ」
前足でえいえいとネズミをつつきながら、そう呟いたその時。
「元気なネコだなぁ!」
バケツの陰から声が聞こえた。はっとして振り向くと、なんと本物の白いネズミがつぶらな黒い目をくりくりさせてこちらを見ている。
「ネズミが喋ったニャ」
「俺はネズミのシロだ」
「にゃん五郎だニャ、よろしく」
聞けばシロは近くに住むネズミで、この辺りのことならなんでも知っているらしい。
「君の飼い主も知ってるぜ。口のとんがった若い男の人と可愛い女の人。男のほうはこないだ石につまずいてコケてた」
「にゃんくとにゃん子だニャ、二人とも優しいニャ」
二匹が楽しそうにおしゃべりしていると、キッチンのほうからにゃん子の困ったような声が聞こえてきた。
「あらー?おやつのクルミが空っぽだわ」
その一言にぴくっ、としっぽを揺らすシロ。
「シロ、まさか食べたのかニャ?」
「なーに、ちょっとばかしデザートにね。ちょっと失礼」
そう言って脱兎のごとく逃げ出すシロ。
「こらーーーっ!!」
にゃん五郎もそれに続く。

窓からその様子を見ているにゃんくとにゃん子。
「あ、いたいた。こんどは本物のネズミか?」
「なんだか面白いわね」
芝生で楽しそうに追いかけっこをする二匹を見て、二人は顔を見合わせて笑った。

 

 

 

おしまい

 

 

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