レビュー『人魚の姫』アンデルセン


人魚姫 アンデルセン童話集 (2)

 

 

writer/にゃんく

 

<あらすじです。ネタバレがあります>

 

十五歳になった人魚の末の姫は、姉妹の中でいちばん美しかった。その歳になると、海の底からあがり、人間の世界を覗いていいことになっていたので、人魚の姫は何年も待ち遠しく思っていました。ようやくその年になり、人魚の姫が海の表面に浮かんで見ますと、王子を乗せた船に出会います。彼女はハンサムな王子に恋します。が、船は折しも津波に巻き込まれ、難破します。彼女は、必死に波の間を泳いで王子を助けます。

 

ある島に辿り着いて、人間の娘が近付いて来たので、人魚の姫は海に隠れます。王子は物音で目覚めますが、人魚の姫が自分を救ってくれたとは知らず、修道院のその娘が自分を助けてくれたと思い込みます。

 

人魚の姫は海の家に帰ります。寝ても覚めても、王子のことが忘れられません。そこで、魔女のところに相談に行きます。

 

魔女はあんたの美しいその声と引き換えに、あんたに人間の足を生やしてやろう、と言います。

 

でも、その足で歩くのは、針の上を歩くように痛いし、もし王子がおまえのことを愛してくれなかったら、おまえは海の泡となって消えてしまう、だから、そんなことは考えないでおいた方がいい、今に不幸になるから、と諭されますが、人魚の姫は自分を人間にしてください、と頼みます。そして、彼女は言葉を失い、その代わりに足を手に入れます。

 

王子は人魚の姫の美しさを気に入りますが、彼女は啞(おし)です。人魚の姫は、王子に気に入られるために、血を滲ませるほどの痛みに耐えながら、踊りをおどります。王子はその踊りの美しさにこころを打たれ、人魚の姫に、自分の元に一生いるようにと言います。彼女の願いは成就したように見えましたが、王子に隣国からの縁談話が持ち上がり、・・・。

 

 

 

 

お恥ずかしい話ですけれど、私、『人魚の姫』に関しては、うっすらと知ってはいましたが、きちんと読んだことがありませんでした。

 

今回読んでみて、すごくエキサイティングな部分もありの、人のこころに訴えかける詩の要素もあり、整然と隅々まで計算し尽くされている物語、という感じもしました。

 

 

何処がエキサイティングかと云うと、例えば、ポリプというイソギンチャクのような触手をたくさん持った化け物が出てきます。ポリプは海に沈んだ人間を絡め取って、殺し、その触手の間から、骸骨になったたくさんの死体が垣間見えています。

人魚の姫は、そのポリプに捕まりそうになりながらも、危険を犯して魔女の家まで出かけて行きます。王子の愛を得るためにです。

 

これなんかは、まさにエキサイティングなところです。ジブリの映画にも出て来そうなハラハラドキドキのアクションシーンです。

 

 

計算されている部分っていうのは、人魚姫が喋れなくなることです。そのおかげで、彼女は自分が王子を救ったのに、そのことを王子に伝えることができずに、悲しい思いをすることになるのです。王子は、人魚の姫が死ぬまで、(死んだあともわからないかもしれませんが)、人魚の姫が啞(おし)のために、自分のことを助けてくれたことを露知らないままです。

 

よく、日本人は、言葉がなくても愛情は伝わるよ、と考えますが、西洋人は違います。彼らは、言葉で伝えないと、わからない。愛ですら、そうです。

 

だから、まさに、典型的に、人魚の姫は、悪しき力によって言葉を奪われているために、王子に愛を伝えられない。

 

こういうところが、西洋人の、言葉で伝えないと、気持ちで思ってるだけじゃ何事も相手に伝わらないんだよ、っていう思想があらわれているところかもしれません。

 

 

また、詩の要素は、物語の人工的に構築されたような美しさもありますが、その他にも、言葉の美しさがあります。短い言葉の中にも、それはあらわれています。

例えば、ラスト、姫の姉たちが、王子を殺すナイフを持ってきます。人魚の姫を愛さなかった王子を、このナイフで刺し殺しなさい。そうすれば、あなたは救われるから。海の泡にならなくて済むから、と。姉たちは、人魚の姫の窮地を知って、魔女にお願いして、その呪われたナイフをわざわざ持って来てくれるんですね。なにせ、その頃には、王子は修道院の娘にこころを奪われて、人魚の姫のことなんて忘れてしまっていたからです。

結局、人魚の姫は、そのナイフを迷ったあげく、海に投げ捨てるのですけれど、そのナイフが海に落っこちる描写が、とても美しく、また気味悪くも描かれています。

 

そういう部分部分は、あげればいとまがありませんけれど、この王子の、のろけ方もいいですね。はじめ、人魚の姫に、おまえ、ずっとそばにいていいよ、隣国の縁談話があるけれど、父はどうでもその女と結婚しろとはおっしゃっていないよ、なんて言っときながら、修道院の女を一目見たら、彼女とぞっこんになってしまって、人魚の姫のことなんてほったらかしにしてしまいます。

人魚の姫も美しいのですけれど、修道院の女はさらに美しいところが、姫の努力も力及ばす、という感じです。そこが悲劇的でもあります。

 

 


人魚姫 アンデルセン童話集 (2)

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レビュー執筆者紹介

にゃんく

にゃんころがりmagazine編集長。
X JAPANのファン。カレーも大好き。

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