小説『777』ー③ー にゃんく

 

777

ー③ー

 

 

 

 

 

 

にゃんく

 

 

 

ミミラとの関係が遅々として進行せず、ギャンブルで負け続けていた。風邪もひいた。みっくんはスロットをやりはじめてから、耐久力が落ちたような気がした。

 

 彼に出会ったのは、みっくんが病み上がりの頃だった。

 彼のことは以前その店で何度か見かけたことがあった。

 偶然みっくんの右隣に坐っていて、台の上には彼が勝ち取ったメダルの山のケースが二つ積まれていた。大当たりがおわると彼は突然遊技をやめて帰り支度をはじめた。まだ閉店一時間まえだったから、みっくんは意外に思って彼に注目した。髪は坊主のように短く刈り込まれ、手入れのされていない髭が伸びていたが、実際の歳はみっくんより二、三歳くらい歳下ではないかと思った。灰色のパーカーに、擦り切れて色の褪せたジーパンを穿いている。

 

 彼がケースを両手に持って立ち上がったとき、ジーンズのポケットから自転車のカギ様のものが落ちた。みっくんは彼を呼びとめて、落とし物をしたことを教えた。彼は澄んだ瞳をみっくんにむけて、丁寧にお辞儀をした。

 

 みっくんの台はちょうどそのとき大当たりしていたが、それまで金をつぎ込んでいたせいで、収支的には二万ほどマイナスだった。この大当たりが終わったら、彼の坐っていた台に移動しようかと思ったが、他の人間にとられてしまった。けれども、彼がいなくなってからその台はいちども大当たりをしなくなった。みっくんはそのまま元の台で打ちつづけ、収支はマイナス五千円くらいまで回復したから、隣の席に移動しなくてよかったと胸を撫で下ろした。

 

 それから二度ほど店で坊主あたまの彼の姿を見かけたが、彼の打つ台はいつも大当たりしていた。

 

 二月下旬の平日の午後九時ころ、フロアにそれほど人はいなかった。みっくんはひとりの男に話しかけられた。

「ちょっとお金がなくなっちゃって」とその男は言った。「この台、良かったら打たない?」

 

 それは坊主あたまの彼だった。顎をびっしり覆った手入れのされていない髭に、純粋に澄んだ瞳を野生児のように輝かせていた。彼は笑顔でみっくんに自分の打っていた台を指し、

「あったまってる」

 と言った。

 その日もみっくんの収支はマイナスだった。みっくんは彼がいつも大当たりを引いていたことを思い出していた。みっくんは疑わしそうな動作ながらも、五秒後にはのろのろと腰をうかせ、彼の坐っていた台に移動していた。

 

 これから大当たりする台をみっくんに譲ってくれたということらしい。このあいだ、カギを落としたことを教えてあげた恩返しということかとみっくんは思った。

 

 みっくんは疑う気持ちが六割だった。誰しもそう思うだろう。その台で打ちはじめてメダルを五十枚ほど投入した。あと五十枚入れて変化がなければ、やめようと思っていた矢先、液晶がそれらしい演出をはじめ、果たして大当たりをひいた。席を譲られてから二千円使っていなかった。みっくんはまわりを見廻したが、彼はいつの間にか姿を消していた。

 

 知らない人が二、三人、みっくんの後ろに集まって来てみっくんの打つ台を眺めている。閉店までに大当たりが終わらないくらいだった。久し振りの大勝だった。あの男は出る台と出ない台の見分けがつくのだろうか。みっくんは両替をしながら、今度会ったら礼を言って、お金をすこし包んで渡そうかと思った。彼と仲良くなれば、彼の持っている、どの台が出るのか見抜く技術を教えてもらえるかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく

 

 

 

 

 

 

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執筆者紹介

にゃんく

にゃんころがりmagazine編集長。
X JAPANのファン。カレーも大好き。

 

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